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残骸の道を踏み付けて


神様を、壊しに行こうか?


―――――――――――――――――――





人類賛歌が鳴り止まない。

それは何時しかノイズとなって浸蝕を始めて、今やもう取り返しが付か無くなった。


指差し、銃弾と糾弾の雨も止まない。


走り抜ける、アンカーへ向けて。

捕まればおしまいの逃走劇。

握り締めたカードは棄てられない。


誰かが言った戯れ事は大災害を引き起こして、無責任に突き付けられた。


ただ走り抜ける、信頼も裏切りも、欲望も、願望も踏みにじりながら。

失ったパーツはまだ見付からない。


青年が言った信念は案外捨てたモノじゃ無かった様で。


アンカーを目指す、自分は届かないと見限った。

存外無責任に託した意志は果たされるだろうか?




神様は歌う、世界を嘲笑いながら。


読めないピースが揃ったら、神様を的にして撃つ音弾。




そろそろ終わりで良いじゃ無いか。



夢も希望も要りはしないよ

こんな世界で生きるなら。










カミサマはウタう、シュウエンへと。











最期に嗤うのは…?


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君の夢を象る情景

静寂の満ちる執務室に動く小柄な影が、一つ。

部屋の主は早朝にして既に上層機関からの呼出しを請けて慌ただしく場を空けてしまった様で、残念ながら今日はまだ顔を合わせては居ない。

特に言い渡された任務も無いし、無意味に時間を過ごすくらいならば彼の為に費やす事の方が何万倍も良いに決まっている。

そう思い至り、彼女は彼が愛用するこの部屋の片付けに励んでいる。

窓から入る光が暖かな日溜まりになり差し込む。


「ふぅ」


それなりに一段落した所で、彼女の視線は無駄な装飾が省かれたソファーに注がれる。

仮眠用にも使われるソレの背凭れには見慣れた白衣がぞんざいに掛けられていた。

近付いて見ると忙しく着込んでいる所為か、些かくたびれている様にも見える。


「これは、流石に再び着て頂く訳には行かないわね」


せめてアイロン掛けぐらいはしなければ…、と白衣に指を伸ばせば生地の質感に触れた。

「………」


サラリ、と衣擦れの音を立てて腕に収まった白を暫し見つめてしまう。


(…あの方が、着てる白衣…)


別に、疚しい気持ちじゃ無い、断じて下心なんて有りはしない。

無い…のだが…
2、3度誰も居ないと判りきっている周囲をキョロキョロと確認してしまう。


(…少し位なら…)


大丈夫、と自分に言い訳をして、そっと白衣を広げる。

大きい。

そのままぎゅっ、と抱き締めれば薬品の香りに混ざった愛しい人の残り香を感じた。

「…っ…」


震える指で持つ化学繊維に軽く唇を添える。

心臓がバクバクと煩く脈打つ、言いようの無い昂揚感と罪悪感が渦巻いて頭がクラクラしてきた。

恐る恐る白衣に腕を通せば、指先が辛うじて袖から出る程に体格が合わない。

そのまま自身を掻き抱けば、擬似的に抱きしめられている錯覚に胸が詰まる。


不意に足音が耳に届き我に返れば、慌てて白衣を元の位置に掛け直す。

数秒後、ドアが開く。


「おや?どうしたんだい、姫菜」


戻った主の声に心臓が飛び跳ねる気がした。


「…私に何か用だったのかな?」


応答を促された気持ちに、動揺を知られまいと不躾ながら背を向けたまま、唇を開く。

「しょ、所長がお忙しいご様子でしたので、僭越ながら部屋の掃除をしようと、思いまして…!!」

「掃除?あぁ、それは済まなかったね…ありがとう」

普段通りの様子で室内を進み、資料等が入っているであろう鞄を執務机の上に起きながら所長は簡素に礼を述べる。


「いえ、その…もう済みましたので、失礼します!」


その言葉一つで、もう何もかもが満たされる喜びが沸き上がって来たが、やはり数分前の行為に罪悪感が引き起こされ、俯いたまま部屋を後にしようと踵を返しドアを目指す。

後数歩、ドアノブに手を掛ける。


「姫菜」


静かで穏やかな声が呼び止めた。


「な、何でしょうか?」


緩慢な動作で振り向いた後、体が硬直する。

背凭れに軽く腰掛けた彼の手には白衣、そしてそれをまじまじと眺めている姿がそこにあった。


「掃除を、して居たんだろう?」

「はい」


背中に冷たい感覚が伝う、喉の渇きと頭に響く警鐘。


「私の白衣を着たのかな?」


ビクリ、と跳び上がりそうになる体を全霊で押さえ付け、震えそうになる声を振り絞る。

「何故…ですか?」


ちゃんと元の位置に戻した筈だ、動かしたのを知られてもそれはまだごまかせる…なのに、何故?

ぐるぐると脳内を廻る疑問は、直ぐに解を示された。

彼の指先に捕らえられているそれは、見覚えのある細い糸。


「君の髪だろう?」


外側からは付かない位置から取り出された桃色の髪を突き付けられる。


「…っ…!?」

「全く、何をして居たんだい?」


変わらぬ穏やかな声色が逆にぞわりと意識を浸蝕する様で、畏怖の念を引き起こされる。

体中の熱が顔に集まる気がして、視界がうっすら水で揺らめく。


「言えないのかな?姫菜」


「……ぅ…あ…っ…」


カタカタと小刻みに沸き上がる震えを抑える術も無く、ただその場で固まる少女の前に、ゆっくりと足音が近付く。

指先で頬を軽く撫でられ、体がビクッと反射的に強張った。


「僕に隠し事とは、良く無いな」


耳元で囁かれる言葉に思わず目を固くつぶってしまう。

対照的に柔らかく、淡泊な声が微かに口角を上げた口から紡がれていく。


「少し、お仕置きが必要かい?」


反射的に見開かれた、瞳から雫が零れた――


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