スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

天翔鴉に牙剥く大蛇



「俺は、お前を引き擦り落とす!」

「ヤれるか?お前に」

「やれるかなんて関係無い。
やるんだ!!」





振り上げる蛇。

空間飛び交う翼を落とす為に。
勘違いしたその鳴き声を、止める為に。




右腕を貫いた手槍、迫る刃を移転し逃れる。
滴る鮮血を撒き散らし、今なお灼熱が鱗を焼いた。


視界から消える長身。
瞬間現れる狩衣、まともに蹴りが入った。


「ぐっ」


痛みを耐え、左手が掴んだ牙の柄を横薙ぐ。
しかし、それは空を裂くに止まる。

反らされた爪先が顎を狙う、
2、3歩身を退いてそれを交わす。

両手に握る刃に力を込めた。

地に貼られた魔導札が、陰陽師の解に応えて破ぜる。

一瞬逸れた意識、姿を戻した鴉の咆哮が鳴り響く。


「っ、油断……した」


脳内でワンワンと乱響する魔力。
頭を振って意識を呼び戻す間に、右腕の傷が治療されている。

せめて一撃。
そう、ただ一撃を入れられれば場が変わるのだ。

奮い立たせる闘志。
そして、小さな青年は手にした枷を外した。



「あ、あぁア"ァァァアァァ!!」




混濁する意識、焼け付く様な衝突。
投げた小刀に鴉は身を捩る。

そのまま貫こうと伸ばされた刀身が迫る。
単調な攻撃は冷静に、翻された。


踏み込む一歩、手首を捻る。


まるで生き物のように、
大蛇が意思を持って動く。


「……チッ」


微かな舌打ちは、裂かれた左足のせい。

赤が散る。反応速度が上がった刃はまるで鞭の様にしなやかに狙い済ます。

獲物を削ぐように、まるで嘲笑うかのように……

治した右腕に、胴に、頬に、裂傷が増えていく。

唸り声を上げる獣、蛇の猛攻は止まない。

やがて感じる違和感。



「ヴゥアァァヴ……!!」



先程からこの蛇は狙って攻撃を繰り出している。

それは従来の破壊衝動とは明らかに異なる行動。



「そうか……お前、自我が……」


呟きの視線上。
牙を覗かせて笑う、その大蛇の双眸は、青。



「……出来ない。なんて言ってないよ!」



八蛇喰らう、刃牙の檻へ。
刃が響かせる甲高い音は蛇の鳴き声。


「終わりだ!!」


捕らえた獲物を引き裂く。





「終わり?」



はずだった。



ふわり、降り立った鴉。
全身を赤く染めた姿は満身創痍。

それでも、彼は口端を吊り上げている。


「終わり、と言ったのか?」


冗談だと言うかの様に芝居がかった動きで笑う。


「まさかそんな。そんな筈が無い。
そうだろう?」

「……」

「有り得ない。
終わりだ、などとは……ククッ」


肩で荒々しく呼吸を返す蛇の視線は鋭い。


「これから、だろう?
なぁ。もっと、もっと楽しませて魅せろ」


くれてやった理性を繋ぐ方法論理。
そんな想定内すら覆す驚嘆を……

血と汗と喘鳴にまみれた極限からの凌ぎ合い。


小さな炸裂音と共に、青年の姿が元に戻る。
時間切れを悟った緊急措置。

左手首からゆっくり放した指先は、再び獲物を強く握った。



「良いよ。我慢比べは得意だしね」


精一杯の強がりを、ふてぶてしく笑みに乗せる。


絡み合う視線。
疲弊と高揚の中で二人の青年は確かに笑い、束の間の闘争に興じていた。









続きを読む
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2016年07月 >>
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
アーカイブ