例えば、全智全能の神が、己より優れた神を生み出す事が出来るのか、否か…?
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「しっかし、本当に斎の変容式って便利だよね」
「お前は、単純だな」
「それは、いきなり酷いよ…」
「褒め言葉だ」
「え〜…?」
「素直だ、とも言えなくは無い愚かしさだからな」
「…結局馬鹿にしてない…?」
「変容にも限度が有るぞ?」
「え、性格とか変わらないみたいな?」
「そうだ」
「どうせなら性格とかも変わった方が良さそうに見えるけどなぁ?」
「出来ない訳では無い」
「本当!?」
「ヤらないだけだ」
「………。何でさ?」
「数字根が変わってしまうからな」
「は?すじこ…??」
「『数字根』だ、数の根底、魂とかそういう類に捉えれば良い」
「魂?でも、数字なんだよね??」
「60兆だ」
「ん?」
「人を構成する体細胞数は60兆個と言われている」
「へっ?細胞!?」
「60兆で構成された数字列を計算していけば数字根が割り出せる」
「うぅ、良く解ん無いよ…」
「早い話、数字根は1〜9に分類される。
例えるなら、俺の数字根が『5』でお前が『8』となる感じだ」
「えぇっ!?そんなザックリしてるの!!?」
「…続けるぞ?」
「あ、うん」
「変容において俺は数字根は変えない。
解がその数字根になる形で他の数値を変える訳だ…。
俺が吸血鬼に変容する際にも数字根は『5』になる様に吸血鬼の数値で60兆の数列を組み立てる」
「う、うん」
「仮に俺の数字根を変容させ、お前に変容するとしよう。
先ず数字根『8』に変える訳だが、コレはそっくりそのままお前の60兆の数列を用いる事とすれば問題無く俺はお前に変容出来る」
「…俺になる斎って想像付かないや…」
「さて、ここで問題だ。
此処に同じ数列から成り、同じ数字根を持つ『八蛇火澄』が存在している。
片方はオリジナル、つまりお前で、もう片方は変容した俺だ。
そうなるとどうやって見分ける?」
「え〜…?
…あ!でも、変容なら俺と姿が一緒なだけだから、性格とか記憶で解るんじゃない!?」
「通常ならそうだな。
だが、今回はそうは行かない」
「えぇっ!?どうしてさ?」
「数字根が同じだからだ」
「…それ、意味有るの?」
「ヤレヤレ、数分前の話すらお前は覚えられないのか…」
「ぐぅ…」
「数字根は魂や根源に当たる、故に俺はお前の記憶や記録、感情、その他総てが一致した存在になっている訳だからな」
「あの、さ…もう少し解りやすく…良いかな?」
「クローンは解るな?」
「クローンって、同じ動物とか作るアレだよね?」
「簡単に言えば『複製』、コピーの様なモノだ」
「へぇ」
「変容した俺はオリジナルを忠実に模したコピー、言わばお前が2人居る様なモノだ」
「ふぅん……アレッ?
でもさでもさ、それなら俺と斎って見分け付かなくない??」
「そうだ。俺はお前でお前は俺と同一になる」
「そんなのおかしいよ!!」
「そうだな、だから俺はそうしないんだ」
「あ、そっか!」
「………お前、この花が何か知っているか?」
「馬鹿にしないでよ!
百合でしょ、白百合、俺にも解るよ!!」
「そうだな…では、この花を数字根ごと変容してみよう」
「変容?」
「Q.E.D.…さて、この花は解るか?」
「薔薇だね、赤い薔薇」
「そうか?」
「そうかって…そうにしか見えないけど?」
「コレは白百合だぞ?」
「……薔薇だよ」
「百合だ」
「……は…?」
「見ていただろう、白百合を」
「うん」
「コレは変容した白百合だぞ?」
「うん」
「では、コレは何だ?」
「…………薔薇?」
「違う」
「うぇぇ〜!?」
「全く薔薇と同じ数列と数字根を持つ、百合だ」
「良く解んないよ〜!!」
「ロックの靴下、或はテセウスの船…だ」
「何それ?」
「例えば、お前が愛しの娘から貰った手袋だが…」
「ちょ、愛しのって!べべべ別に俺は…!!」
「少し黙れ。
その手袋に穴が開いたらどうする?」
「俺はそんな事…わわっ、そんな睨まないでよ…えぇっと、俺ならそこを直すけど?」
「では、別の箇所が破れたら?」
「直すよ?大事な物だもん!!」
「最終的に元に使われた素材全てが変わった手袋になったとして、それは本当にその娘から貰った手袋か?」
「勿論っ!!」
「………」
「………」
「…お前には理解出来ない次元の様だな…」
「えぇっ!何で〜!?」
「では、一つの斧が有るとする」
「斧だね?」
「ソレは災厄が起こる前に作られた、貴重な斧だ」
「うわぁ、凄いねぇ!!」
「しかし、長期保存の段階で刃を5回、柄を10回新しい物に変えてある」
「ふぅん?」
「さて、この斧は本当に災厄前に作られた斧なのか?」
「え?そうじゃ無いの??」
「………さぁな」
「うわ、急に投げやりにならないでよ〜…」
「投げやりにもなる所だ。
しかし、本当に確定は難しい」
「んぇ?」
「同じで違う存在の確定は、お前に解らないぐらい繊細と言う事だ」
「う〜、何か結局馬鹿にされたよ〜…」
「さて、雑談はコレくらいにさせて貰うぞ?
俺は忙しいのでな」
「はいはい、いつもの様に片付けますよ〜だ…」
「クククッ…精々体で稼ぐんだな?」
「…悪魔だ、悪魔が居るよぅ…!!」
「…クックック…」