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The bullet of despair.



それは、何を護る為の、弾丸だったのか?


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俺が『家族』に加わってから少し過ぎて、チームが発足した。

家族を守る、刃の爪持つ銀色の鷹。
でも、俺は思った。

例え、翼が無くとも俺達の要は金獅子に代わりは無い。

目映く力強く、光を放つ存在。
閃光と肉体で敵を砕く、絶対的太陽。



俺は、その片腕として、誰より後ろで独り、その背を見つめていた。



ヘマをして、敵に捕らえられた時も、彼は家族を見捨てない。
罠に飛び込んで「大丈夫だ」と笑った姿は、救いそのものと覚えている。



何度救われたか分からない。
何度笑い合ったか分からない。


誰より強く、優しく、気高い。
その存在と生きる事は、俺達の誇りだった。










そして、その盲信が、彼を孤独に苛むと気付けなかった……。










夜の廃墟、皹割れたコンクリートの床は冷たかった。

首を圧迫されて、押し倒される。
馬乗りに組み敷かれたせいで、抵抗が出来ない。

月明かりに輝いた鎌が反射して振り上げられ、
俺は動く事を忘却していた。

左頬を掠めた刃は、首筋の横に突き立てられる。
出血をした筈なのに、痛みなんて無かった。

ただ、驚愕していた。



彼を蝕んでいたのは、孤独だけでは無かったから。




自嘲気味な笑顔を、初めて見た。
小さく怯える背中を、初めて見た。

その目に揺らぐ、水を、俺は初めて見た……。





繰り返される日常は、何故かほんの僅か翳りを感じていた。

笑い、戦い、守り、生きる。
替わり無いのに、感じるのは、不安だったのかも知れない。

太陽の影を知ったから。








そして、不安は、現実を侵食した。






夜の廃墟、遠い喧騒。
先行して走る彼と別れて、上階を突き進む。


路地裏。気配が無い静寂を、唸りが裂いた。


窓硝子の無い窓から見下ろした恐怖。
不安は加速して焦燥へ、焦燥は冷静を焼き焦がした。

頭の中をリフレインする『約束』
早まる鼓動、否定する最悪。


無意識に、ライフルを構えて照準を合わせていた。
大きな背中、その一点。


弾丸はスキルに乗って、心臓を撃ち抜く。

スコープ越し、嫌に緩慢な時間で、
彼は……俺を見ようとして、倒れた。


意識が肉体に戻ったのはその時で、
事を脳が認識した瞬間に飛び降りた。

名前を呼んで、駆け寄って、小さな穴を両手で押さえ付けた。


「死ぬな! 死ぬな! 」


無意味と心が認識して、力が抜けた。
左手を血に染まった両手で握る。

薄く開かれた瞳は、確かに俺を映していた。


声が、聞こえた。
俺を、呼んだ。

見上げると、彼女達が立っていた。
一様に、絶望と驚愕を宿しながら。



するり、左手を放した時にその指輪が抜けた。


「あんたが……殺したんでしょう?」


弁解も否定も出来なかった。
黙った俺を糾弾する声はか細く、静かで、苛烈だった。


「どうして?」


どうして?

答えていたら、変わっていたかも知れない問い掛け。

どうして?

答えなかったのは、
親友のたった一つの約束と、一生を賭して守りたかったモノが有ったから……。






結果。
家族は傷を負い、憎しみに堕ち、
俺は人殺しとして卑怯に逃げ出した。










何が正しい選択だったのだろうか?

彼が望まないまま、皆に打ち明ければ良かったのか?

事実から目を反らし続け、最悪の事態まで黙して居れば良かったのか?




翼を、希望を、信頼を、光を、未来を。
俺自身すら撃ち抜いた弾丸は、何だったのか?


約束の為。

それすら今や身勝手な言い訳に思えてならない。


本音は。



本当は……『特別』に溺れた強欲だったのでは無いか?

家族も、最愛の彼女ですら知らなかった秘密の共有に、悦に入っただけだったのでは?



真実を述べられるとしたらそれは……


彼が不治の病に侵されていた事と、
俺が彼を射殺した事だけ。



赦されたいのか、裁かれたいのかすら、もう解らない。



ただ、堕ちてしまった。
光が今は眩し過ぎて、色濃い世界が目に痛い。

深い深い夜は、朝を忘れた。
レンズ越しに見る世界は、隔離された空間。


死んで償いたい。
生きて罰されたい。

どちらが、彼女達の痛みを僅かでも癒せるだろうか?



俺は、馬鹿だ。


何も、解らないのだ。



そして、今は烏滸がましくも風を受けて翔んで居る。


『仲間』を得て、図々しくも生きている。


それは過去から目を反らした訳じゃ、無い。


身勝手に、傲慢に、俺は朝を望んでいる。
朝日に翼を溶かされても、構わない。


もう一度、ただ一度だけ。
彼が愛した世界に、存在に、
彼と俺達に起きた悲劇を起こさせない為に。

愛する者も失わない為に。


「出来る事を、やろう」


新しい主人の言葉を握った。

































「お前、嫌いだ」





それで良い。




「……。俺は、好きだ」



そんな答えを、呟いた。


















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