スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

ColdrainーHeartbeat


曇天の空からは、この時期にしては冷たい雨が降り注ぐ。

辺りのネオン以外は暗色で、聴こえるのは雨音と呼吸音。

湿気を吸って重く貼り付く衣服が鬱陶しい、
せめて、別な音さえ鳴れば良いのに。


パシャ、パシャ……


身体の痛みすら麻痺しちまって、ただ重く倦怠感だけを感じている。

下腹部の傷口から滲む血液も、雨に紛れて残らないだろう。

単純に、仕事をミスした。

元々キナ臭い案件だったし、依頼主がオッサンだったからやる気も無かった。

だから、敢えてミスしてやった。

後悔はしちゃ居ないが、ここまでされるとも思って無かった。

大人って言うのが、あぁ言う奴等になるって事ならお断りだろう。

いや、まぁ。
そもそも綺麗事で生きてる気なんてのも、更々無いんだが。


結構激しい暴行の末にやり返してやったが、多勢に無勢。
その上、餓鬼でしか無い俺はこうして逃げるのでやっとだった。

しかもご丁寧にナイフで刺される失態付きだ。
単調な雨音と相まって、気が滅入る。

首に掛けてるヘッドホンも、中身が遂にイカレちまって音が出ない。

正に、最悪。

覚束無い足取りは、ふとした拍子に縺れ、
水音を上げてコンクリートに覆い被さった。


(……だっせぇ……)


血が抜け過ぎたせいも有るのか、身体に力が入らない。


ぼんやりと地に落ちる水を眺めながら、頭だけが現実感を失っていく感覚に溺れていく。


(あ〜……死ぬのか、このまま)


他人事の様に思い浮かべ、意識が澱む。

思い返すのは、退屈で、どうしようも無く下らない日々。


(こういうの、何つったっけ……走馬灯……?)


思い返すには、こう、色々と物足りない気もする。
何せ、まだまだ生きた時間が短過ぎる気がした。


(……ろくな想い出も無ぇのかよ、つくづく格好悪ぃなぁ……)


全部嫌気が差して、棄てて、適当で、
彼女とかも出来ないで、何も変えられ無ぇで。


自嘲してやるのも馬鹿馬鹿しくなって、瞼を閉じる。


(どうせなら……次ぐらいは…………)



考えるのも、面倒臭くなって、眠気に任せてしまおうと思った。


パシャ、パシャ……

雨音だけの世界。
冷た過ぎる、最期の……



「ねぇ」



声が、聴こえた気がした。
こんな雨の中でも、響く声が。

鉛みたいに重い瞼をゆるゆると開けた。
濡れそぼったコンクリートに不釣り合いな、赤いヒール。

顔を動かすのも億劫で、視線だけ動かす。
暗色に浮かび上がる、赤い服。

その上、赤い髪をした女が、見下ろしていた。
やけに輝く瞳と視線が交わる。


「アンタ、死ぬの?」


にべも無い一言。
だったら、コレは現実とはもう違うのかも知れない。


「…………」


女は、答えを待ってるのか、何も言わない。
良く見れば、結構整った容姿をしている。



(なんだ)


唐突に、息苦しさが無くなった。
倦怠感も、何もかも、切り離されたみたいだった。


(……良い事……有ったじゃ無ぇか……)


通算してショボイ人生だったが、最期の最後。
こんな良い女がお出迎えしてくれる程度には報われたのだろう。


だったら、地獄だろうが、何だろうがどうでも良くなって、
今度こそ俺は、眠りに落ちた。


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「何笑ってんの?」


晴天の屋上、赤い髪を風に靡かせた彼女がコッチを向いた。


「別に?」


口元を変えないまま、弾薬を詰め込む。
彼女はそれが気に召さない様に口を尖らせた。


「天気良いなぁ、って思ってた」

「嘘」


完全に嘘じゃ無かったが、やっぱり納得が行かない様子で彼女は俺と対面した。


「本音は?」

「……ん〜?」


手馴れた様に銃を両手に握る。
この重さは最早身体の一部みたいなモノだ。


「惚けんなら、歌わない」


クルリ、背を向ける彼女。
このまま機嫌を損ねては、俺は死ぬしか無くなるらしい。

わざとらしく肩を竦めて、観念する。
まだ、死ぬのは御免だった。


「歌蘭さんの事考えてた」


今度は正直に……しかし嘘なんて言って無ぇんだが。


「…………やらし〜事考えてたの?」

「そ。俺健全だし?」


どちらとも無く、ニヤリと笑った。


「しょうがない奴」

「自覚はしてる」


悪戯っぽく笑う歌蘭さんは、やっぱり良い女だと思う。

ザワリ、俺達を感知した敵がざわめき立つ。
2つの銃から静かに安全装置を外した。


「ねぇ、漣」


彼女は知らない。
知らないまま、煽る。


「アタシにどうして欲しい?」


楽しそうな謎かけ、答えなんて決まってる。



「イカしてくれよ、俺の事」



満足気に、息を吸う。
次に紡がれるのは、待ち焦がれたご褒美。



舌舐め擦りを1つ、俺は飛び込む。


発砲音も、飛び散る体液も、荒廃した風の音すら聴こえない。
身体中を充たすのは、脳髄を駆ける歌声。



4分近い行為の顛末は、呼吸を乱した2人だけの話だった。





















続きを読む
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2015年03月 >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
アーカイブ