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溺れる空、灰の海

此処は静かで、世界から隔離されてるみたいー…



―――――ーーーーーーーーーーーーーー


灰色の曇り空。

適当に寝そべる場所は崩壊したコンクリート建物の上。

歪んだフェンス、割れた硝子、剥き出しの鉄骨…。

埃と、錆と、何かの匂いがする。

「…ねぇ…」

少し離れた隣に横になっている彼女が口を開いた。

「ん?」

「何か廃墟って、海の底みたいだよね…」

海、行った事無いんだけどさ…と彼女が笑う。

「灰の空に皆溺れて、沈んだみたい」

静か過ぎるこの場所は、生き物の気配が無い。

在ったとしても、彼女には解らないのだ…。

水の底みたいに、冷たくて温かくて、静かでいて何処か胸が騒ぐ。

四肢を投げ出し、彼女の白い肌が廃墟の風に晒されている。

…消えてしまいそうだな…。

そう思った俺は、咄嗟に腕を伸ばして、彼女の指先に触れた。

赤紫の目が俺を見る。

「ハハッ、そんな顔するなって!

別に今死ぬ気は無いよ」

向けられた笑顔に安堵する。

彼女が居無くなってしまう世界なんて、考えたく無かったから…。

俺は指先を絡めたまま、目を閉じてみた。

意識が海へ、沈んで行くー…。

さざ波の音、気泡が上がる音。

微かな声、沈む、溺れる…。

「…此処が海の底だったら…誰にも気付かれずに深海魚の餌にでもなるかもなぁ…」

目を閉じた廃墟は、静かだった。

隣から、紡がれ出す歌声。

俺は歌に溺れながら、廃墟に沈む。


欲望と理想と権力で灰色に固められ、空を突き破っていた建物達。

汚れた空気、死んだ大地、濁った水。

破壊して作り替えて、
不要と言ってまた壊す。


人間が嫌いになる。

醜くて、反吐が出そうになる。

そんな俺も、人間で…。

普通と特殊。

その差は何だろうか?

暗い海の底。

沢山の亡霊が漂う。

手招きをする、呼んでいる…。

揺れた視界を悟られたくなくて、顔を逸らした。

歌はまだ続いている。

此処が海底なら、物言わぬ存在の欠片。

今だけは、溺れて、

今だけは………

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