周囲には敵しか居ないと教えられた。

幼い頃から繰り返し擦り込まれた教育は、未だに俺から抜けない判断基準になった。

『周囲を使う者で在れ』

弱者と馴れ合う必要性は無い、何故なら矮小な有象無象共等に価値は無いからだ。


叩き込まれ、それに適う者になろうと思った。


だが、


気付いた。



誰より矮小で、価値の無い者に…



乱暴に携帯を机に置く。

薄暗い部屋で目を射抜く光はやがて消えた。

今や何もかもが愚かしい。

目を閉じて数瞬、脳裏に焼き付いた面影が苛立たしい。

歯噛みをして、右往左往と忙しなく室内を歩き回る。

やり場の無いこの感情は、馬鹿馬鹿しい程の自嘲すら引き起こして増大するだけ。


「お前…弱いな?」


ギリッ、と堅く握り締めた掌に爪が食い込むが、痛みですらこの劣情を冷ましてはくれない様で。


「…認めるかッ!!」


認める訳に等行かないのだ。

それは敗北だ。
明確に、あの高見から睥睨する赤紫に屈服すると言う事だ。

見上げれば、奴は遥か頭上で、
眩し過ぎる光すら纏う様だ。

侮蔑の瞳で嘲笑う姿。

藻掻き、手を伸ばす俺を、さも無価値で有ると言うかの様に身を翻し飛び去る。

嫌だ。

堪らず両腕で身を抱き竦む。

嫌だ、嫌だ、厭だ。


誰より、知っているのだ。


「下らない」


「……解っている…ッ…!!」



『このまま夜が明けなければ良い』

なんて小さく拙い我儘すら、叶える事も出来ないのだ。