それはまるで、王の前進…或は荒海を割る聖者の様だと思った。
人は彼を金獅子と比喩する。
日に透ける髪は確かに金に似て、その逞しさと覇気は百獣の王の名に相応しい。
しかし、決して彼は気取らず、傲慢では無く、皆に等しく平等だった。
その領域に住む者を彼は家族と慕い、彼等もまた彼を慕っていた。
自分が彼に抱くイメージは、どれもプラスなモノで満ちていた。
時には遠く気高い神聖な存在。
時には戦場を駆ける荒々しい猛者。
そしてある時には気さくで頼れる友人だった…。
「彼の為にならば、傍らで一生を尽くしても良い」
そう思わせる潜在的な力が有るのだろう。
そして、自分もそう思い願った一人だ。
分かち合い、認め合い、時には反発をし、深め合った絆は、今も何物にも替え難い大切なモノとして胸の内に宿っている。
今、光の堕ちたこの世界にすら僅かな光明を指し示す。
凛とした強い輝きを放つ目が好きだった。
慈愛に満ちて、先を見据えるその視線と同じモノを見ていたかった。
後方で保身を謀らず、皆と共に…いや、皆より先んじて敵に立ち向かい討ち滅ぼす。
そんな彼の背を、遠くから見つめていた。
もう、二度と夜明けは来ない。
そう悟った筈だった…。
しかし、彼は再び現れ、道を示した。
『もう一度』
あぁ。今一度だけ、
この宵闇の空を飛翔する事を赦してくれた。
いや、勝手な都合の良い解釈だったかも知れない。
幻影は鮮明に、この片翼を風に添わせる。
飛べるかは、解らない。
戻れない
進めない
「…お前は、太陽の様だ…」
ならば、
「それならお前は月だな」
輝けぬ石になっても、貫くと決めた。
人の価値は死して現になる事を知っている。
彼は愛され、惜しまれ、沢山の人々が涙を流した。
だから、どんなに汚れ、闇に堕ちようとも…
誇り高き輝きの残光は消える事無く燈されている。
銀翼の鷹に、金色の獅子王在り
その輝きは千里を照らし
その咆哮は万敵を滅ぼす
旗は今も風を受け、
彼が愛した世界は生きている。
たった一つの深い深い、悲しみの傷痕を遺して…。