ゼノク・地下異空間ゲート前。
蔦沼はその前に立っていた。西澤と蔦沼の秘書兼世話役の南がやってくる。
「長官、姿が見えないと思ったらなんでここにいるんですか!?」
西澤、だるそうに言う。南は無言だが、蔦沼の奔放さにしびれを切らしているようだった。
蔦沼はある書状を出す。それは異界文字で書かれた文章。
「絶鬼のやつ、ご丁寧に書状を送りつけてきたんだよ。僕と話がしたいんだってさ」
「絶対罠でしょ。行くんですか?」
「話し合いで決着が着けば御の字じゃあないか。ま、交渉次第だけども」
西澤は思った。なんでナチュラルに異界文字解読出来てるの?…と。南はポーカーフェイスだが、同じことを感じていたらしい。
「だからと言って単独で行くのはいかがなものかと…。戻れなかったらどうするんですか?」
蔦沼はなぜか余裕。
「憐鶴(れんかく)が異界を探索してくれたおかげで、ルートはいくつか出来てるよ」
憐鶴を利用したのか!?
蔦沼は何の躊躇いもなく、異空間ゲートを開放。そしてゲートの向こう側に消えた。
「長官行っちゃったよー…」
「交渉が上手くいくとは思えませんが」
本部。
「長官が異空間に行った!?しかも単独!?あの人無謀すぎでしょ!?止めなかったのか!?」
宇崎が西澤に騒ぎ立てる。
「必死に止めましたよ。絶鬼から書状が来たから交渉するとかなんとか言って、ゲートからしれーっと行ってしまったんです」
「交渉!?異世界人に話通じるのか?相手は災厄撒き散らしてる絶鬼だぞ!?」
宇崎は西澤と話を終え、通話を切る。司令室を見た。鼎がいない。
「あれ…鼎、どこ行った?」
鼎は憐鶴と一緒にある場所にいる。憐鶴は任務中ではないため、黒い仮面は着けていない。
黒衣のままだが、憐鶴からしたら黒い制服が戦闘服のようなもの。
「先程、ゼノクから連絡が入りました。長官が交渉のために異空間に行ったそうです」
「交渉だと!?」
交渉?一体どうなっているんだ。
異空間。蔦沼は書状に書かれた場所へ到着。そこはまるで城のような館だった。
「大きいねぇ」
蔦沼は門にその書状を翳す。門が開いた。導かれるように館の中へ。しばらく進むと絶鬼が待っていた。
「ようこそ。蔦沼栄治ゼルフェノア長官。本当に来るとはね〜」
「何の狙いで呼んだ?」
「君なら話が通じると思ったからさ。交渉しに来たんだろ。天変地異を起こしてるのはこの俺だ」
「天変地異を起こして何をしたいんだ」
絶鬼はある部屋に通した。そこには長いテーブルに料理が並んでいた。
2人はテーブルの両端に座る。
「ま、先に腹ごしらえだ。異界のおもてなしだよ。人間界のものの舌に合うように料理は用意しといた」
蔦沼は緊張している。毒盛ってないだろうな。
「何警戒してんだよ。毒なんて入れてないぞ?」
絶鬼はもぐもぐと料理を食べている。蔦沼もようやく料理に手をつけた。
絶鬼は蔦沼の両腕の義手を見た。
「あんたの義手、ただの義手じゃないな。戦闘兼用だろ」
「なぜわかる」
「興味あるんだよね〜。ハイテクなもんに。この世界にはないからな」
食事を終えた2人は別の部屋で交渉することに。
本部。御堂達も長官が交渉に異空間に行った話を聞きつけ、司令室に来た。
「前代未聞じゃね!?長官自ら交渉に行くって」
「もう行ってるよ。今頃交渉してるんじゃないのかな〜」
宇崎は相変わらず軽い。
「だからかよ。天変地異がピタリと収まったから嫌な感じがしたんだよ」
異空間では――
「絶鬼、目的はなんなんだ」
「世界の破壊と初期化だよ」
破壊と初期化…。
「さて、どう出ますかな。蔦沼長官」
「初期化とはどういうことだ」
「世界をリセットするんだよ。俺が新しい世界の管理人になるわけ」
「交渉決裂だな。お前とは話し合いなんて無理だったよ」
蔦沼は義手を展開。絶鬼も臨戦体勢に。
「じゃあトップ同士戦いますか?場所はどうするよ長官。ここじゃなくてもいいんだよ?」
「そうだね…なら元の世界に帰してくれよ」
「いいよ。さすがに都心でドンパチするわけにはいかないからな〜。
あの場所に転送するか。郊外にちょうどいい場所がある」
絶鬼は蔦沼と共に異空間から人間界に転送。2人が着いた場所は採石場。
「ここなら自由に戦えるだろう?長官」
本部。
「長官が戻ってるぞ。どういうことだ?」
鼎はメインモニターを見た。そこには採石場にいる蔦沼と絶鬼の姿が。
司令室には憐鶴もいた。
「解析班、聞こえるかー?」
「室長なんですか」
宇崎からの通信に朝倉が答えた。
「採石場の場所を探してくれ。今、長官がいるところだ」
「了解」
解析班は長官の居場所を特定。
「よし、長官の援護を出すぞ」
「室長、援護出すのか!?」
鼎は勝手にいいのか!?…といった反応。
「組織のトップが死んだらどうすんの!?だから出すんだよ、援護をな」
「誰を出すんだ」
「…そこなんだよな〜…」
宇崎、かなり悩んでる。
採石場では蔦沼vs絶鬼の戦いが起きている。
「なかなかやるじゃないの、長官」
「世界の存亡がかかっているんだ、本気にもなるよ」
司令室では緊張感に包まれていた。憐鶴が呟く。
「絶鬼の強さは未知数だと聞いてます。援護出すにも人選を失敗したら…」