周りが、騒々しい。
何を言っているかは解らないけれど、何人もの重なった声が辺りを包んでいる。確認をしようにも身体は動いてくれないどころか、瞼さえ持ち上がらない。
――これは一体どういう事なのでしょう。
不思議と思考はまともなようで、そのちぐはぐさは何だか滑稽だった。
「なぁ、お前…生きたいか?」
――生きたい?
突然明瞭に聞こえた声に虚を付かれ、オウム返しに疑問が浮かぶ。声に出したつもりは無いのにソレは疑問に答えた。
「だってお前、苦しい、辛いって思ってたじゃん。それなのに生きてたいの?やめたくなんねーの?」
――生きます。辞めたくない。
初めから決められていたかの様に出てきた答えに、妙な納得と嬉しさを覚え安堵する。ひとりでに口角が上がればソレは安堵した声で素っ気なく言う。
「あっそ。じゃ、頑張れば。」
その声を合図に僕の思考は途切れた。
目が覚めたら知らない天井だった。
「ここ、どこ…?」
思わず漏れた声に違和感を覚える。と同時に近くでガタリと音がなった。視線をずらせば、丁度母親くらいの女性が涙目で此方を見ていた。小刻みに揺れる身体は歓喜に打ち振るえている様だった。
「より、かず…依和っ、もう目を覚まさないんじゃないかと…、母さんも父さんも心配して…!」
「何を騒いで居る、ん…依和!意識が戻ったのか!」
途中入ってきた男性も嬉しさが滲み出た顔で駆け寄ってきた。
「あの、すみませんがあなた達は…それに、よりかずとは何方の事でしょうか?」
二人の顔が、一気に絶望に変わった。途端に女性は顔を覆って泣き出し、男性は僕の肩を掴んでこう言った。
「何を言っているんだ!私達はお前の親で、依和はお前の名前だろう!?」
その言葉に既に混乱していた脳内は警鐘を鳴らす様に痛み出し、僕は再び意識が途切れた。
目を開ければ今度は真っ暗な世界だった。
ぐるりと辺りを見回しても代わり映えのない黒の世界。もしかしたら上下さえも曖昧かもしれない。どうしたものかとひと息吐けば、
「よぉ。」
と、ソレは逆さまに現れた。突然の事に碌に反応出来ずにいればつまらなそうな顔をしてぶつぶつと文句を言い出した。
「折角出てきたのに反応なしとか、俺がぼっちみたいじゃんか。」
「それで、あなたは誰ですか。」
それまでの大仰な動きを止め、ソレはニヤリと笑った。
「俺の名前はー…まぁ言えないだろうから神様とでも呼んでくれたらいいよ。」
「はぁ、そうですか。」
どうも胡散臭さしかないソレにどうしたものかと歯切れの悪い返事を返す。
「神様は神様でも死神様だけどな。」
「僕、死ぬ気はありませんけど。」
「でも、死ぬ目には遭ったろ?」
その言葉に眉を顰める。確かに、ある。車に跳ねられたのだ。青信号を渡っていたのにも関わらず、だ。
「ちゃんと覚えがあるみたいだな。あの事故は、二人の男子中学生が跳ねられた。一人は黒子テツヤ、もう一人は煤代依和…お前とお前の入ってる体の持ち主。」
言いながらソレは指を鳴らせば、目の前に鏡が現れた。
僕は絶句するしかなかった。鏡に写し出されたのは僕とは別人の姿だった。顔も、髪の色も、身長も、何もかも。この死神様とやらを信じるのなら、この人物は煤代依和なのだろう。
「一体、何がどうなってこんな事に…」
訳が解らなかった。他人の体に入っているなんて、人間業ではない。そこで端と気付く。ここには人間で無いソレが、いる。
緩慢とした動きでソレを見れば、困った様に笑っていた。
「そいつ、寿命だったんだよね。だから事故に遭った。他を巻き込まない様に事前確認もしたんだ。」
ソレはそこでひと呼吸置いた。
「でもお前がいた。直前まで気付けなかった。しかもそれでお前は即死、そいつはまだ息があった。でも結局は空になる体。だからお前に聞いたんだ、生きたいかってな。」
「……僕は、他人の体を…奪って…」
「それは違う。お前にそいつの体をあてがったのは俺だ。それにお前は煤代依和としてしか生きれない。もう黒子テツヤはいない。」
それもそうだ。自分の体は死んだ。両親も祖母も悲しんでいるだろう。…チームメイトは、分からないけれど。
「ほら、もう起きる時間だ。ま、頑張れよ。」
ふっと浮き上がる感覚に、これから先の不安しか生まれず断ち切るように目を閉じた。
――――――――
グダグダ感しかないww
まぁ、夢だしなぁ…