2010-2-14 23:50
馬鹿だ。
馬鹿だ。
僕は馬鹿だ。
こんなこと、少し考えれば分かっていた筈なのに。
僕は馬鹿だ。
世の中の女性達が十四郎を放っておく筈がない。
十四郎だって、女性達から貰った方が嬉しいに決まってる。
始めから分かりきっていたことなのに、
僕は馬鹿だ。
自室の畳へと膝をつき、鴨太郎は涙を流した。
悔しかった。
悲しかった。
寂しかった。
土方が貰っていた、山のようなチョコレート。
綺麗にラッピングされた包み。
美しいパッケージ。
きっと土方への気持ちが込められているのだろう。
それに比べて自分のチョコレートは
不器用なラッピングに
気の利かないリボンの巻き方。
そのどれを取っても、足元にも及ばない。
自分が情けない。
こんなモノで彼が喜んでくれる筈がない。
僕は馬鹿だ……
見つめたチョコレートの箱をゴミ箱に捨てようとしたとき、
「鴨太郎、何やってんだよ」
不意に頭上から土方の声が降って来た。
「…十四郎…」
どうして
視線で問えば
「お前からバレンタインのチョコ貰いに来た」
当たり前のように言ってのけた。
「まだ貰ってなかっただろ」
「何……、用意してないって、」
「じゃあコレは何だよ」
土方は鴨太郎が後ろに隠したチョコレートを取り上げる。
「!!!ぁっ……」
それは、
「か、かえしてっ」
鴨太郎が土方の手のチョコレートを取り返そうとするが、土方はそれをヒョイとかわす。
「なんでっ…かえしてよっ…」
「やーだね。コレは俺のだ」
半泣きになりながら必死に取り返そうとするが、無駄に終わる。
土方はお構いなしにリボンを解き、包みを開けた。
「やっ……」
包みの中には、鴨太郎らしく几帳面に丸められたトリュフチョコレートが入っていた。
「…すげぇ……」
「かえしてっ…お願いだから」
感嘆を漏らす土方の手からチョコレートを奪い返し、俯いてしまう。
「何でだよ…そのチョコレートは俺の為に作ってくれたんだろ」
「ち、ちがうよっ…」
「じゃあ誰に渡すつもりだったんだ」
「……っ…それは…」
土方に威圧感のある瞳で見つめられ、言葉に詰まってしまう。
カッコ悪い。
恥ずかしい。
たくさんのチョコレートを見て嫉妬してただなんて。
どうやって言えば彼は許してくれるんだろう。
「お前、大方俺がチョコレート貰ってるの見て妬いてたんだろ」
「っ…」
ビクリと肩が跳ねる。
見透かされてる……十四郎は僕のこと何でもお見通しだな…
「あのな鴨太郎、俺はあのチョコレート、ひとつだって喰う気はねぇよ」
ため息混じりに呆れたように言う。
「俺は、心から好きなヤツからしか、鴨太郎からしか受け取らねぇ」
「…!………」
真っ直ぐと鴨太郎を見つめる。
ぎゅうっと心臓が締め付けられる感覚になる。
土方の本気の目。
「っ…駄目だよ…、僕のなんか全然綺麗じゃないし…、きっと美味しくない…」
「うるせぇ、お前が何と言おうと俺はお前からしか受け取らねぇって決めてんだよ」
「…でも、」
「いいから。…お前の気持ち、俺にくれよ」
土方の鴨太郎を見つめる目が、優しく色を帯びる。
「……、…うん…」
その優しさが心に染みて、自然と涙が零れた。
「泣くなよ」
苦笑した彼に向き直り、素直にチョコレートを差し出す。
「綺麗じゃないし、美味しく出来てないと思う。…でも、僕からの気持ち、受け取ってもらえますか…?」
今の気持ちを精一杯彼に伝えた。
「有り難く頂戴するぜ、鴨太郎」
チョコレートを受け取る彼の表情はとても幸せそうだ。
「すげぇ嬉しいよ」
土方は再び包みを開け、中のチョコレートを見つめる。
「綺麗に作ったな…さすが鴨太郎だ」
「そっそんなの誰にだって作れるよ…」
「いいや、お前にしか作れねぇよ」
ふ、と土方が笑う。
鴨太郎の頬にますます朱が走る。
「喰ってみてもいいか…?」
「十四郎にあげたんだから…好きなようにしていいよ」
鴨太郎がそう言うのを聞いてから、包みの中のチョコレートをひとつ頬張る。
豊満な甘さと香り、ほのかな苦味が口内に広がる。
そして………
「コレって…………マヨネーズ、か?」
びっくりしたような表情の土方を見て、鴨太郎が僅かに微笑む。
「うん……十四郎、マヨネーズ好きだから…」
チョコレートに入れるのはどうかなって思ってたんだけど、と照れて笑う鴨太郎を渾身の力を込めて抱きしめる。
「っ!?と、十四郎?」
「すげぇ、美味い。嬉しい。ありがとうな、鴨太郎」
ぎゅうっと抱きしめる腕と広い胸から、彼の体温と鼓動が感じる。
とても幸せな時間。
この時間がずっと続けばいいのに、
そう思う鴨太郎の耳元に、
「ホワイトデーは10倍返し、な」
幸せいっぱいの土方がそう言った。
*********
うわぁあんこんなのでごめんなさい!
ギリギリバレンタイン間に合った……
書きたいことがまとまらずに苦戦しておりました。
本文を補足しますと、鴨太郎は基本的に何でもできます。
お料理でもお裁縫でも。
ラッピングも綺麗にしてます。
ただ自分と他人のと比べているので悪く見えるだけで、客観的に見れば完璧です(笑)
これからも精進します!!←←
読んでくださってありがとうございました!!