今年、贈るのは甚平だ。
藍色を見た瞬間、父に似合うと確信した……というのが言い過ぎだろうか。
濃い色合いが、髪と目の色を映えさせて、彼の顔を引き立てるに違いない。想像するだけでもうっとりする。
甚平を握り締めながらほぅと熱いため息をついたところで、真後ろから呆れたとばかりに声をかけられた。
「あのさぁ、ロイドくん。
別に俺さま脳内妄想にケチつける気は無いけども。
それに決めたんだったら、さっさと清算してきたら?」
「しっかりケチつけてるじゃないか、ゼロス。」
せっかく贈った服を身に着けた青年に抱きしめられ、彼の匂いに包まれ、全身で父の体温を感じて。感謝の言葉を耳元で囁かれるという至福の一時を想像していたというのに、まったく。
空気を全く読まない友人の言葉に振り向きながら、ロイドは呆れた声を出した。
ロイドの姿は制服だ。
週末という曜日にしては不釣合いではあるが、運動系の部活に入り、大会も近付いてきているこの頃は少しでも多くと進んで練習に参加している。
朝から学校に行っていたが、今日ばかりは昼過ぎという時間、早々に練習場をあとにした。
最近は思っていたよりも時間がとれず、父に贈る物を決めていなかったという予想事態を前には仕方の無い事だと自分に呆れつつも、途中駅で下車してショッピングモールに突撃した。
あちこちの店を覗いている時に親友と偶然出会ったが、にやにやと面白そうな顔であちこちついてきては、ロイドの手に取るものを茶化してからかいの言葉を贈ってくれている。
勿論、彼のこの行動は、自分に対する嫌がらせではないと解っているし。今日中に渡さないと意味が無いプレゼントを探している身としては、時間が経てば経つほどイライラが募りそうな状態に陥りかけう度に、ロイドは親友に対して容赦のない八つ当たりを捧げている。当然ながら、拳の形はぐーで。
「いや、別に妄想でも想像でも構わないけども。
そんなにしっかり握り締めていたら、せっかく決まりかけているプレゼントが皺だらけになりそうという状態に対する俺さまの心遣いよ?」
「え……やべっ」
危うく、指摘された通りに皺だらけの服を贈る事になってしまう可能性に気が付いたロイドは、慌てて握り締めていた手の力を弱めた。
幾らなんでも、開封した瞬間に目に入るのは、ロイド自身の手によって一部のみ異様な皺加工された和服は贈りたくない。父は、たとえ物であろうとも息子の手から贈られた品は喜んで受け取るだろうが、ロイドはそうはいかない。
彼にふさわしい、美しく綺麗な物を身に着けて欲しいというのは我儘だろうか。その思いが、息子の欲目も入っていると知っていても。
レジで会計し、淡いブルーの包装にリボンをかけられた箱を受け取ったロイドは、今宵手渡した時の父の反応を想像して再び笑みを浮かべた。
*……*……*……*……*……*……*……*
全くクラトスが出てこないけれども、父の日話と言い張ってみる!
タイトルの「あい」は、藍、愛のどちらの解釈でもお好きに。
2012 父の日