高校を卒業して全員別々の大学に進学してどんどん会う機会も減り、連絡もしなくなった、そんなある日秋臣からの着信で携帯が震えた。
高校時代から片想いをしていた秋臣からの着信に心が高鳴り、電話に出る。
「もっ…もしもし」
「春村久しぶり、今大丈夫か?」
「うん」
「よかった。急で悪いんだけど久しぶりに冬貴達も誘って飯でもと思ったんだけど今週の土曜って予定入ってるか?」
大学もバイトも両立させるため、あまり時間に余裕は無いが秋臣が遊びの誘いをしてくれているのだから優先しない訳が無い。
「今のところはないけど…」
どうしても顔が緩んでしまい笑みが溢れるが声色は平然を装い、そう告げる。
「それじゃ決定だな。場所なんだけど土曜でどこも混んでるだろうから俺の家で良いか?」
「秋臣の家でも良いけど俺が足を踏み入れるに相応しい程にはしっかり掃除をしておけよ。」
「相変わらず図々しいな。」
そんな高校時代に戻ったような会話を終え通話を切る。
(あっくんに会える……)
男の癖にこんな乙女みたいな思考なんて自分でも嫌気がさすけどそれでも土曜日が待ち遠しくてたまらなかった。
土曜日、約束の時間は夜なのに普段よりも早く目が覚めて無駄に服選びに時間がかかったり未だに高校時代の想いを忘れられていない事に心底ウンザリした。
そうこうしているうちに時間は進み秋臣の家へ向かう。久しぶり過ぎてチャイムを鳴らす手も躊躇する。
ポンという音が鳴り、しばらくして「はい」という懐かしい声が聞こえ思わず笑みが溢れる。
「春村なんですけど…」
高校の時によく発した言葉遣いを返してみると少し笑い声が聞こえ「今開けるから待ってて」とインターホンが切れた。
ようやく秋臣と会える…ドアが開いたらあっくんがいる…そんなことを考えているとガチャッとドアの開く音がした。待ち望んでいた相手へと笑顔を向けた。
「あっく…「いらっしゃい、春村くんだよね?上がって上がって!」
そこにはいるはずのないヒトが当然のようにいた。
秋臣の彼女だ。その後ろから声がする。
「悪い春村…今日お前らと呑むって言ったらこいつが会いたいってきかなくて…」
意味は理解してるが心が追いつかない。今日を楽しみにしすぎていた分ショックが大きくてどんなリアクションをとればいいのか分からない。
「何よアキ…人の事邪魔者みたいに!」
「そういう意味じゃねぇよ…」
さっきまで早く秋臣の姿を見たいと願っていたはずなのに、隣にいるのが彼女なんてあんまりな現実だ…。
秋臣の特別な存在でもない俺がどうこう言える事でも無いし承諾するしかない。
(早めに帰れば良いか)
そう考え「別に良いよ」と作り笑顔を向ける。すると「やったぁ!春村くん優しいね!」なんてマヤが喜んだ姿を見せる。
こういう女の仕草を可愛いと微笑む秋臣の姿を見ると心底自分の恋愛の無意味さを嫌でも思い知らされる。
リビングに移りソファーに座る。
「あれ?そういや冬貴まだ?」
「あぁ、なんかバイト少し長引くから先に始めててってさっき連絡来た。」
そういうとマヤが料理を運んでくる。「いっぱい食べてね」なんて言葉も付け足して出来た彼女だと思う。
案の定隣にぴったりとくっつく二人を見たくなくて酒に手が伸びる。知らない間にかなり飲んでしまいうたた寝をしてしまった。
「春村?寝てる?」
ぼやっとした脳内で(あっくんが俺のこと呼んでる…これ夢…?)と寝ぼけたまま夢ならと思い切り秋臣に抱き着いた。驚いた秋臣の声が聞こえけど現実では到底口に出来ない言葉を伝えたくて口を開いた。
「あっくん…好き、大好き…」
そう言葉を告げた途端ガタガタッと体が揺れ目が覚めた。横を見ると困惑と冷たい視線。何が起きたか分からず、ただただ顔を見返すとマヤが口を開く。
「春村くんってさ…ホモなの?」
「は?」
思わず言葉に詰まった。
「なんでいきなり」
「今アキに思いっきり告ってたじゃん…こんな事言いたくないけど秋臣にもう近づかないで貰えないかな…」
「マヤッ…!」
「だって嫌だもん!アキは私の彼氏なのに男に好かれてるのも嫌だしそもそも男同士なんて気持ち悪い!」
「……っ」
何も言い返せない。今まで必死で散々隠し通して来たのに気が緩んだ。
気持ち悪いなんて自分が周りと違うと気付いてから散々言われた…昔のこと、それなのにトラウマで身体が震える…
涙を堪えるのが精一杯で思わず部屋を飛び出した。
「ハル!」
部屋から秋臣が叫んだが無我夢中で外に飛び出した。
秋臣が追いかけようとすると背中にマヤが抱き「行かないで…私のそばにいてよ…」と弱々しく呟く。仕方なく秋臣はその場に座った。