モチベーション維持のための小説第二段です。
創作ファンタジーワンドロ&ワンライとのことで。
本日のお題は バジリスク/呪術師/コピー でしたので、
その中の"呪術師"を使って、本編時空のフォルとペルのお話を。
ペルは影猫の中で唯一の?呪術使いです。
呪術、というのはやっぱり反動も大きい魔術なので、多分フォルは自分が使うことは殆どしなかったはず。
…そう言うところだぞフォル、というお話でした。
今の時空のペルは色々と幸せそうに生きてるのでこういう時空のペルを書くのが新鮮で楽しかったです←
では追記からお話です。
しとしとと、雨が降り注ぐ。
薄暗い路地。
深夜の、出歩く人間も少ない通り。
そこに一人、長い黒髪の少年は佇んでいた。
季節外れのマフラー。
それを巻き、傘をさすでもなく佇む姿はまるで捨て猫のそれのようだ。
それをみつけた男がゆっくりと歩み寄る。
親切心の仮面を貼りつけた好奇心、そしてドス黒い下心を持って。
「どうしたの、僕?」
そう問いかければ、少年は顔を上げた。
真っ白の肌に漆黒の瞳の少年は、男の顔を見るとすうと目を細めた。
「……ああ」
思ったより、簡単。
そう呟く少年。
その言葉の意味が理解出来ず、男は怪訝そうな顔をする。
言葉が、通じていない?
否それほど幼くも見えないのだけれど。
そう思いながら男がもう一度、言葉をかけようとした……その刹那。
―― 少年の黒い瞳が一瞬紫色に光った。
それに驚く暇もなく、どくりと心臓が嫌な音を立てた。
心臓を鷲掴みにされ、握り潰されているかのような、感覚。
「な……ッ」
掠れた声をあげ、男はその場に倒れ込む。
冷たい雨が、体を叩いていく。
周囲に他の人間の姿はない。
捨て猫のような長い黒髪の少年が居るだけだ。
少年は驚いた様子も見せず、自分を冷たい目で見下している。
「な、んで」
薄れる意識の中で理解する。
眼前の少年の所為で、今自分の体は動かないのだ、と。
体内をめぐる魔力が他でもない眼前の少年のそれと同じなのだ。
何故。
その問いはあらゆる意味を含んでいた。
何故こんな小さな子供が。
何故自分が。
そんな幾つもの、疑問符。
少年はそれを理解しているのか、否か。
小さく瞬くと、感情の点らない声で言った。
「……御主人(マスター)の命令、だから」
憐みも恐怖も一切滲まない、無機質な声。
まるで人形のような様子が、恐ろしい。
「練習、しておいでって」
―― 僕の力は複雑だから。
そう呟く少年の声は最後まで聞こえなかった。
事切れた男を見下ろしても、少年の表情は変わらないままだった。
***
雨に濡れながら、森の奥の屋敷に戻る。
ぼんやりと明かりの点る居間に入れば、退屈そうにチェスの駒を弄っている主人……フォルの姿があって。
彼は少年……ペルの姿を見るとぱっと表情を明るくした。
そして手にしていた駒を置いて、ずぶ濡れのペルの方へ歩み寄ってきた。
「お帰り、ペル」
そう言いながら、フォルは手近にあったタオルでごしごしと濡れたペルの頭を拭う。
「……ただいま」
ぎこちなくそう返す彼をみてにこにこと笑った主人は無邪気に笑って、首を傾げる。
「上手に出来た?"呪術の練習"は」
その問いかけにペルは小さく頷く。
そう。
彼が街中でしていたのは、呪術の練習。
影猫の操り人形の一人、ペルが持つ能力……呪術の練習だ。
こればかりは実地訓練が一番だから、というのは他でもないフォルの言である。
上手く出来た、といって良いだろう。
あっさりと一人の人間を呪い殺すことが出来たのだから。
あれならばきっと、"仕事"でも使える。
そう思いながらペルが頷けば、フォルは一層笑みを深くして、ぽんぽんと彼の頭を撫でた。
「そうか、良い子良い子」
そう褒められて、ペルは少しだけ目を細める。
―― 必要とされている。
それが、幸せだと思った。
誰かに必要とされることが、ありがたいと。
例えそれが、"化物"と称される力であっても。
「さ、シャワーを浴びて着替えておいで。ご褒美にケーキ食べさせてあげる」
そういって笑うフォルに頷いて、ペルは部屋を出ていく。
その背を見送った主は、満足げに笑った。
「うんうん、素直で良い子」
―― ああいう呪術師が一人は居た方が良いからね。
そう呟いた彼は鮮やかなサファイアの瞳を細めたのだった。
―― 小さな呪術師 ――
(使いやすい手駒が多いことに越したことはない。
呪術なんていう面倒な力を使えるなら、なおのことね?)
(例えそんな力だけでも。
誰かが必要としてくれることはきっと、"シアワセ"なんだろう)
2020-6-17 22:55