聳え立つ観覧車へ苦笑をこぼし、黒いキャスケットの鍔を深く引き下げた。
押しに弱い性格の所為か、はたまた持って生まれた巻き込まれ体質の所為か。
気が付けば博士と名の付く連中の掌上で転がされっぱなしの十数年だったような気がする。
カントー制覇から流れ流れて、とうとうイッシュまで来てみたは良いものの。
「好評絶賛迷子中」
「…らぁ?」
「好評じゃないのは解ってるからそんな冷たい目で見ないで」
やけに人間臭い仕草でやれやれと首を振った茶色い相棒に唇を尖らせ、ここ数年で紙媒体から電子媒体へと形を変化させたタウンマップを開く。
「どうみても待ち合わせの町じゃないね」
「らいちゅ」
「っていうか、どこで待ち合わせだったっけ」
「らぁ…らいちゅ!?」
平日のお昼時、真面目に働く方々の通行の邪魔にならぬよう、道路のはじっこで一人と一匹が身を寄せ合う様子は奇妙としか言いようがない。
使い古した鞄から取り出した機械をポチポチするも、圏外の二文字が虚しく点滅するだけだった。
「うわ、ポケギアもポケッチも使えない…、アララギ博士の連絡先知らないし。まさかイッシュがこんなに広いなんて…」
ごちゃごちゃした地域だから迷っても仕方ないよねテヘペロ☆と誤魔化し笑えば、軽い…とは言えない衝撃が後頭部を襲った。
あれ、これ後ろ割れてない?
私の頭割れてない?
「ラウムさんごめんなさい、でも鋼の翼で教育的指導は止めてください中身でるから」
「ピジョッ」
相も変わらず容赦のない最古参の保護者は、やれやれとでも言い出しそうな仕草で首を緩く振った。
これなんてデジャブ?
「とりあえず…センターで博士に連絡とってお昼御飯にしようか。通信機器も買わなきゃだし」
「らいちゅ!」
「ピジョ」
「だよねだよね、折角のイッシュなんだし観光したいし遊園地楽しみだし観覧車乗りたいしヒウンのアイスも気になるし…!」
「…ピジョ?」
ああん?
斜に構えた保護者の鋭すぎる眼差しをはね除け、観光マップを広げた。
いいじゃないか。
たまには、遊んだってさ。
どうせジョウトに帰ったらチャンピオンの仕事が山ほどなんだから。
久々のフィールドワークに四天王の皆さんも快く頷いてくれたわけだし。
「大丈夫大丈夫、まず私のところまで通さないって言ってくれたし」
仕様のねぇ野郎だ、と。
喉を鳴らし溜め息を吐いたピジョットの翼に頬擦りし、足元で嬉しげに鼻唄を歌うライチュウの頭を撫でた。
「じゃ、行こうかな」
少しおやすみね、と2体をボールへ戻す。
ざっと目を通したが、この街には電気タイプのジムがあるようだ。
博士に挨拶をする前に一暴れするのも良いかもしれない。
「これで変な組織が関わってこなきゃ万々歳なんだけどな」
ちらりと見えた奇抜ファッションの皆さま方へ苦々しい視線を向けつつポケモンセンターの扉を潜った。
【P・M・O・R!】