ソレは・・・
例の女か?タナトスよ。
そうだ。
幾度も悲痛に祈る声が聞こえ、どんな女か直接見に行ってみたが・・・
見ろ、ヒュプノスよ。
この女の魂、とても美しい。
・・・見るだけでは足りなくなって攫ってきた、か?
攫う?ふん、違うな。
女が求めて来たのだ。
拾った、とでも言っておこうか。
2.死に攫われる
でも詳しい事情聞いてないから攫った事になるんじゃないかなー(´・_・`)
外に、出たい。
どうせこのまま死を待つぐらいなら
ここから出て、好きなことをして、自由に生きて・・・そして死を迎えたい。
どうせ死ぬって分かっているんだから・・・
外に、出たいな・・・
もう何度そう思ったか、願ったか、分からない。
私の言葉を聞いてくれない人達は、私をずっとこの場所に縛り付ける。
何をしても無駄だって分かっているのにどうして此処に居なければいけないのか。
外に・・・
「出してやろうか?」
不意に聴こえたその声に、無表情のまま顔を向けると、知らない男の人が妖しく笑いながら立っていた。
黒を基調とした服装は、明らかにここに居る人じゃない。知り合いでもない。私と同じ病人さん?それとも誰かのお見舞い?は無いか。こんな夜遅くに。
「誰、ですか?」
頭の中で冷静に考えながらも、少し不安げに口を開いた私を見て、その人は表情をそのままにこちらへ近付いて来た。
「タナトス。死を司る神だ。」
・・・は?
死を司る、神?
何を言って・・・あぁ、そうか。
「私、もう死ぬんですか?」
あーあ、こんなことなら無理してでもここから出て、好きなように生きればよかったな・・・
自嘲気味に笑いながら、神と名乗る目の前にいる人物を見ると、今度は呆れた表情をこちらに向けてきた。
「なぜそう思う?」
「死を司る神って言ったじゃないですか。」
「そうだな。」
「死神さんなんでしょう?」
私の命を取りに来たんですよね?
続けて言う私に死神さんはまたも妖しく笑う。
「どうやら勘違いをしているようだな。」
「?」
「死の迎えではない。」
じゃあ何しに?
死に近い者をあの世に連れて行くのが死神さんの仕事でしょ?
それとも目の前に居るのはただの人間で、私をからかっているんだろうか?それか本当はここに居る人で、私があまりにも死んだ表情をしているから、元気付けようとこんなことをしているんだろうか?
ジッと自称神と名乗るタナトスさんを見詰め、次の言葉を待っていると
「ずっと祈っていただろう?」
「・・・」
「ここから出て、自由に生きたいと。」
・・・
そういえば最初にこの男は何て言ってただろうか?
「出してやろうか?」
そんなことを言っていた。
もしかして・・・
私は期待を込めた眼差しをタナトスさんに向けて、少しドキドキしながら口を開いた。
「出して、くれるんですか?」
私の言葉を聞いたタナトスさんは口元を緩ませ、私を見下ろしてくる。
それを肯定と勝手に受け取った私は、目の前に居るタナトスさんに手を伸ばす。
この男が本当に神なのか、はたまたただの人間で私を騙しているのかは分からないけれど・・・
ここから連れ出してくれると言っている。
連れ出された先に何が待っているのかは分からないけど・・・
どうせ長くはない命だ。
心の中で苦笑しながら、タナトスさんの目を見詰める。
「何処でも良いです。連れてって下さい。」
その言葉を聞いたタナトスさんは更に笑みを深く浮かべ、私が伸ばしていたその手を握り、そして・・・
「二度と『ここへ』は帰って来れないがな。」
「え?」
どういう意味か聞き返す暇も無く、その言葉を最後に、意識が途切れた。
1.死との出会い
細かい設定は省きます←