誰かの嫌い
「ケント君て、俺のこと嫌いなんでしょ」
その声はいつも通りブロックに夢中になっていた時唐突に降ってきた。
目の前の『友達』は同じクラスの男子。
…?
同じクラスの男子。それ以上の接点を持った記憶がない。
つまり、彼がそう判断した要素が何なのか見当がつかない。
とはいえそれは全くの事実無根だ。
だから俺はすぐに否定の言葉を発した。
「お主私の事が嫌いだろ」
その声は下からきた。実験の机の端から覗くように、悪魔がこちらを見ていた。
今回はれっきとした事実なので言い放つ。
「嫌いだよ」
「なんだとー!?ひどいっ!フィオに言いつけてやるっ」
そう言って走り去っていった。
おそらく最初から目的はフィオに甘える事で、俺からどう言われたかなんて口実だ。
結局、誰が自分をどう思うかなんてどうでも良い事だ。
昔、俺に、嫌われてると思っているらしいやつがいた。
その時すかさず、そんな事ない。嫌いじゃない、と告げた。
しかしそれは「ウソつき!」という言葉でブロックとともに崩された。
突然やってきたかと思ったら言葉を否定し俺への嫌悪を宣言して、彼はそこから去って行ったのだ。
俺はずっと自分の世界で他人は裁かず判断せず平等に接していれば公平で正しいと思っていた。
けれどそれ裏を返せば他人に恐ろしく無関心なのだとその一件で自覚した。
俺が最善だと思った事が、誰かにとっての嫌いの、無視の表現だった。
そして、俺は嫌いの宣告を受けた。わざわざ言う事じゃないだろう。お前を嫌っている、だなんて。と不満を感じたが、相手にはそうされたと思わせてしまった上での仕返しなのでおあいこらしい。
他人の感情を気にしておいて、本当の気持ちなんてどうでも良いと言われた気分だった。結局は自分がどう感じたか。それだけだ。
その点あの悪魔は心は利用してナンボだと言わんばかりなので気にする必要がない。
「ある意味楽だから嫌いじゃないけどな」
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